【本>歴史】地名の謎を解く 隠された「日本の古層」 伊東ひとみ

地名の由来を調べるために、縄文人の思考にまで言及するハイパー深堀タイプの本。

あちこちの地名の由来を羅列している本だと想像して読み始めると、気づいたら明治維新、ヤマトの国、縄文の世界にまで連れていかれる『地名の謎を解く 隠された「日本の古層」』のお話です。

こんな人におすすめ
  • 地名マニア
  • 名前マニア
  • 明治維新オタク
  • 縄文時代・神話フリーク

1つでも当てはまっていればOKです!


 

現在から地名の由来をたどるのはめちゃくちゃたいへん。平成の大合併のひらがな化

ひらがな市町名 部外者から見ると元からあるどこか1つの市町村の名前に統合するのが分かりやすいですが、合併された側は不満も残るもの。

力関係をなくすためにひらがな市町村名はよく使われます。

さいたま市は、県庁所在地を有する浦和市、大宮市、与野市が合併された市ですが、じつはエリア外の埼玉群埼玉(さきたま)村がルーツなので、漢字を避けひらがなにしたそうです。
千葉県のいすみ市は、元々の漢字は夷隅・・東夷(周辺の人)がすむ隅、と漢字の意味が良くないためひらがなに変えたそうです。

これは歴史ある地名がどんどん埋もれる原因になってしまいますが、自分が住むとしたらやっぱり良い漢字のところを選びたいな~と思ってしまいますね。。

ひらがな地名の問題は、スペースを入れないとどこで区切るかわからないこと。

明治維新前後でだいぶ変わった

そもそも「東京」というが新しく決められた地名。明治維新の時に古代から伝わってきたものがガラッと変わっていきます。

廃藩置県は単なる置き換えではなかったそうです。
江戸時代の土地の区分は、幕領、旗本・御家人領、大名(藩)領、天皇領、寺社領など所有している団体や規模はかなりばらばらで、民衆は村単位で自給自足の生活をしていたので中央政権を意識することはなかったようです。
また土地は分け与えられるものでもあったので、関東に彦根藩の領地があったりもしました。

この世界感が明治維新では一変し、廃藩置県では大規模な合併と新しい区切り方が行われました。この時からすでに、村ごとに不満が出ないように新しい町村の名前は当事者が相談して決めてよいと言うきまりになっていました。

苦渋の作でできた地名は、合併された村の数(七会村)などもあり、歴史を紐解くことをさらに難しくさせてしまいました。水上+青木+折居+樋口=清哲村となった例は現在のひらがな地名に匹敵する突飛な変更です。

アイデンティティを失った民衆を「日本国民」とひとくくりにする

クニとか士農工商というアイデンティティを持っていた民衆が日本国民とひとくくりにされたので、新しくできた県はいささか空虚でどうでもよいもので愛着は持ちにくかったのです。そこで万世一代の天皇を中心とした神の国という物語が入ってきて、日本国民という意識を芽生えさせるきっかけとなりました。

この物語を強化するため、神仏の分離と、仏教の弱体化が進められました。

天皇を中心と考えさせるために、仏教寺院をつぶしてしまった!

例えば奈良の興福寺と春日社(大社)は一体の信仰をされていたが、無理やり分けられました。周辺の小さい寺院は政府に没収され、その空間が奈良公園となりました。興福寺がだだっ広い公園の中に塀もなく突然現れるのはそのため。

明治維新のころは庶民も文明開化が魅力的だったので古い物が消えていくことに何とも思わなかったし、新しいもののほうが価値が高いと思っていたようです。
これらが現在日本人の多くが無宗教になっている原因でもあります。

ヤマト政権前後でだいぶ変わった

古代の日本は「言霊の幸はふ(さちわう)国」。文字を必要としないほど、音の響き=言霊に絶大なる信頼がおかれていました。

漢字の伝来・使用は4~5世紀に始まります。中国語から日本語の音に合うものを当てはめて表現したものが、万葉仮名です。

例:「奈尓波ツ尓作久矢己乃波奈」→ 難波(なにわ)津に咲くやこの花

日本語は母音が強い言葉です。英語のように子音だけが重なる stick, crock などの言葉がありません。

 

これは私の憶測ですが、言霊を大事にしていたということから、古代の人たちはもっと母音を強く発生し、「なあにいわあつうにい さあくうやあ こおのおはあなあ」というしゃべり方だったんじゃないかと思っています。

 

そういえば沖縄に住んでいた時に地元の人が独特の発音をしていたことを思い出しました。

縄文文化が濃く残っていると言われる沖縄では、現代でも単語を伸ばして発音することが多いですが、これは母音をしっかり発音する名残かもしれません。

なお沖縄弁では語尾に”さー”とつけるイメージですが(NHK朝ドラ・ちゅらさんの影響?)、実際はそれほど”さー”ばかりではなかったです。

      • ゴーヤー(→ごおやあ) 本土ではゴーヤと縮めがち
      • おじー、おばー(→おじい、おばあ) 本土ではじいじ、ばあば、おじいちゃん、おばあちゃん等と最後に着地する音を置きがち
      • 〈名前〉えーりー、かーずー(→ええりい、かあずう)えり子、かずみなどの場合も最初の2文字で呼ぶことが多いです。本土ではえりちゃん、かっちゃん等と母音がない”っ”、”ん”を入れがち

あくまでも憶測です。

万葉仮名で書く文章は冗長なので、漢字の意味に日本語の発音を当てはめる訓読みが作られ始めます。

こうしてできた日本語は豊かな表現が可能になりましたが、煩雑でもあります。

意味は分かるが読み方が分からないという他言語からは理解されなさそうな単語が身の回りにたくさんありますね。

またそれは特に地名に多いのは皆さん実感できると思います。

こじつけるは故事つけるとも書き、縄文時代から脈々と続いてきたかもしれない地名だが、意味が分からなくなってしまったので、国生み神話に結び付けたりする気があります。もとより、各地が何らかの由来を求めなければいけなかったのは、ヤマトのお触れ「解(げ、風土記のこと)」がそれらの情報を提出させることで支配を強固にする動きがあったからです。

明治政府が見本とした古代律令国家「ヤマト」は日本列島に初めて線を引きました。五畿(京都奈良大阪あたり)と七道(東山道、東海道、北陸道、南海道、山陽道、山陰道、西海道)は、今でも大きな影響力を持っています。新幹線の名前になっているのはもちろん、○○地方はこの時の区分が根強く続いている証拠です。

ヤマト政権のおふれとして、好字・二字という中国の慣習に倣って二字に直されました。これで由来が分からなくなった字もあります。

木→紀伊、粟→阿波、泉→和泉、津→摂津、近淡海→近江、林→拝志、上→賀美

ここでも思いついたのですが、卑弥呼、邪馬台国などの字にちょっと野蛮さを感じるのは、日本を後進国として見ていた古代中国が記録したからであって、音だけの”ひいみいこお”や、”やあまあたあいい(国)”などには漢字からは感じとれない(ダジャレか!?)別の意味があったのかもしれません。

作者・伊東ひとみ

他に著書『キラキラネームの大研究』『漢字の気持ち』などがあります。



地名メモ

阪神間を流れる武庫川と、六甲山は同じ由来。「むこ」→武庫・務古→六甲→ろっこう

岐阜は元々、井口(いのくち)織田信長がつけた。中国の岐山と、孔子のふるさと曲阜からとっている。中国由来の唯一の県名。

日光の由来を遡ると、ニコウ←二荒←ふたら←補陀落(ふだらく)←ポタラカ 仏教に関する名前。

まとめ

  • 地名の変遷とひらがな市町村名の影響:
    • 平成の大合併により多くの地名がひらがな化され、歴史ある地名がたくさん埋もれてしまった。
    • さいたま市やいすみ市など、ひらがな地名は力関係の調整や漢字の意味合いを避けるために選ばれた例が多い。
  • 明治維新と地名の大変革:
    • 明治維新の廃藩置県により、土地の区分が大きく変わり、新しい地名が多く生まれた。
    • 村ごとに不満が出ないように新しい町村名が当事者の相談で決められたが、結果として歴史的背景がわかりにくい地名も増えた。
  • 古代日本の言霊文化と地名:
    • 漢字伝来前の日本は「言霊の幸はふ国」で、音の響きに絶大な信頼が置かれていた。
    • 沖縄など縄文系の人が多く住む地域では、母音を強く発音する名残が現代でもあるかもしれない(感想)。
  • ヤマト政権の影響と地名の変化:
    • ヤマト政権の影響で、五畿七道という区分が今も地名に強い影響を持ち、新幹線の名前などにも反映されている。
    • 好字・二字という中国の慣習に倣って地名が二字に改められ、由来が分からなくなった例も多い。

よろしければ読んでみてください!

最後までお読みいただきありがとうございました。





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